自動車業界のArmエコシステムを通じて、統合の複雑性を克服しつつ、スケーラブルなソリューションを構築するための協調的なブループリント

著：オートモーティブ事業部門Go-To-Market担当シニアマネージャー、スウェタ・トーシンワル（Swetha Toshniwal）、オートモーティブ事業部門Go-To-Market担当ディレクター、ロバート・デイ（Robert Day）

モビリティの未来は、自動車業界に破壊的創造をもたらすと同時に、自動車の複雑性を大幅に増大させています。AIを活用した運転体験、クラウドと車両間のコネクティビティ、クラウドネイティブ開発によって、自動車の設計、構築、体験のあり方は形を変えています。

高度なソフトウェアとAI機能の自動車への迅速な統合と継続的なデプロイにより、複雑化の進むシステムでは、シームレスな統合、リアルタイム性能、安全性、サイバーセキュリティの確保が課題となっています。多様なプラットフォームとグローバル市場でアップデート、相互運用性、コンプライアンスを調和させることは、自動車メーカーにとってさらなる困難を招きます。

Armは最近、AIデファインド・ビークルの開発期間を短縮するための事前統合済み・検証済みの変革的なCSSとなるArm Zena Compute Subsystems（CSS）を発表しました。このZena CSSは、中央演算アーキテクチャへのより広範な移行の一環として、デジタルコックピットから先進運転支援システム（ADAS）へと拡張できるよう設計されており、自動車業界のイノベーターは、高性能、機能安全、クラウドネイティブへの対応を核とした最先端の自動車体験を実現できます。

Zena CSS：コラボレーションを前提としたプラットフォーム

AIデファインドな次世代の自動車体験を実現するため、Zena CSSには、ソフトウェア、ミドルウェア、開発ツール、AIの分野を網羅した、世界トップクラスのパートナーエコシステムが集結します。Armのコミュニティは現在、イノベーション、相互運用性、規模を通じ、自動車をダイナミックでインテリジェントなプラットフォームへと変革する協調的なフレームワークの構築に共同で取り組んでいます。そして、自動車業界の変革のグローバルな性質を反映するものとして、Armのエコシステムは、地域も専門分野も異なる幅広いパートナーを擁しています。同時に、Armのモジュール型プラットフォームにより、パートナーは地域の規制、市場の需要、顧客企業の期待に応じて自社のイノベーションをカスタマイズできます。

Zena CSSで動作する車載ソフトウェア・ソリューション

Armのソフトウェアパートナー・エコシステムは、プレシリコンのソフトウェア開発用の仮想プラットフォーム・ソリューションや、クラウドネイティブな開発と協調的なフレームワーク向けのSOAFEEの手法を活用することで、各社のソリューションがZena CSS上でどのように動作するかを公開しています。サンプルアプリケーションとしては、無線（OTA）アップデート、AIデファインドの運転体験、インフォテインメントの強化、セーフティクリティカルな通信の同期が挙げられますが、同時に業界規格と標準化されたDevOpsフレームワークにも準拠しています。

エコシステムのコラボレーションを通じ、Zena CSS上で次世代のAIデファインド体験を実現

通信の標準化：シームレスなOTAアップデート

自動車のソフトウェアには、継続的かつセキュアな進化が求められます。AWS、Autoware Foundation、eSync Alliance、Excelfore、Red HatからなるArmのパートナーは、オープンスタンダードのOTAによって、これを実現しています。eSync OTAの標準化におけるExcelforeのリーダーシップと、車載イノベーション向けに安全認証を取得したRed Hatの車載用OSの組み合わせにより、自動車の開発者とOEMには、安定した基盤、オープンエコシステムとの相互運用性、最高の柔軟性がもたらされます。最後に、The Autoware FoundationのSOAFEE Open AD Kitブループリントからサンプルアプリケーションを使用することで、私たちは、実環境の自動運転ソフトウェア・ワークロードを開発・導入する方法を実証できました。

AIデファインドな運転体験

Cerence AI、Mapbox、StradVisionは、それぞれの分野で高度な専門知識を有しており、これらが組み合わさることで、車内のユーザー体験が向上します。StradVisionの提供する、軽量かつ高性能に最適化された認識系AIは、運転者支援システム向けにリアルタイムの物体検知を実現し、状況認識を強化します。Mapboxは、充実したカスタマイズ機能を備えたモジュール型のナビゲーションSDKとAPIを提供することで、ブランドに合わせた地図中心のインターフェイスの容易な設計を実現します。Cerence AIは、インテリジェントかつ自然な音声操作機能を追加しており、自動車分野との高度な統合を実現した、多言語対応の柔軟な音声プラットフォームを開発者にもたらします。こうした技術は、インテリジェントで応答性が高く、ユーザー中心の車載ソフトウェアをZena CSS上で構築するための、スケーラブルかつ開発者フレンドリーな基盤をサポートします。

車載インフォテインメントの強化

標準的なデバイス仮想化フレームワークのVirtIOを活用することで、パナソニック オートモーティブシステムズは、車内の複数のディスプレイで統合型のヒューマン・マシン・インターフェイス（HMI）を公開するアプリケーションを構築しています。このUnified HMIは、車内の物理ディスプレイを仮想ディスプレイに抽象化するディスプレイ仮想化フレームワークであり、アプリケーションは物理ディスプレイの制約を受けることなく任意の場所に表示できます。これはSOAFEEブループリントとして提供されており、Unified HMI GitHubでオープンソース公開されています。ソースコードはこちらからご覧いただけます。このSOAFEEブループリントは今後、車載インフォテイメント（IVI）とデジタルコックピットのアプリケーションを強化するものとして、Zena CSS上で提供されます。

セーフティクリティカルな同期

ワークロードの確定的な実行を保証するため、デンソーは、ソフトウェアデファインド・ビークル（SDV）アプリケーションのモデリング、開発、ランタイム監視用の時間指向のミドルウェアを公開しています。オープンソースの時間コーディネーション言語「Lingua Franca」を使用することで、アプリケーションの動作は、スケジューリングと関連する時間プリミティブを用いて正確に定義できます。SOAFEEブループリントとして提供され、The Autoware Foundationのオープンソース自動バレーパーキング（AVP）アプリケーションソフトウェアを使用することで、この確定的な動作は実環境のアプリケーションで実証されています。このAVPアプリケーションは非常に複雑であり、車内では複数の分散型ソフトウェアのワークロードをタイムリーに協調させる必要があります。しかし、これらはすべてZena CSS上で一貫した動作が可能です。

ソフトウェアの開発手法

GitHubおよびInfoMagnusと協力することで、Armは現在、AIデファインドな運転体験の将来の保証に取り組んでいます。両パートナーは、Zena CSSプラットフォームのすべての層が、継続的な進化とAIドリブンな適応性に対応できるよう支援します。ArmネイティブのGitHub Runnersと、ELISAプロジェクトの継続的なコンプライアンスによって、ソフトウェアの開発チームには、AIデファインド・ビークルに特化した包括的なツールチェーンとコンプライアンスのフレームワークが提供されます。

SOAFEE：クラウドネイティブな自動車の開発手法と活発で協調的なコミュニティ

今年で4年目を迎え、150社を超えるメンバー企業が参加するSOAFEEは、SDVの開発実現に向けた重要な業界イニシアチブとなっています。クラウドネイティブの分野から主要な手法とテクノロジーを採用することで、SOAFEEは車載ソフトウェアの開発者に対し、十分な実績に基づくモダンな手法を活用する機会をもたらします。

こうした取り組みを加速させるSOAFEE内の重要なイニシアチブが、SOAFEEブループリントプログラムです。これにより、メンバー企業は、SOAFEE環境で実行されるアプリケーションやテクノロジーを公開でき、開発者はSOAFEEの利用をいち早く開始できます。本プログラムは、SOAFEEのメンバーシップを通じたコラボレーションの促進にも寄与しており、ブループリントの多くは、複数のメンバー企業の共同作業によって開発されています。これは上記でご説明した車載ソリューションで実証されており、その多くはSOAFEEブループリントプログラムを通じて公開されています。

ソフトウェア開発の「シフトレフト」：仮想プロトタイピングを使用し、Zena CSSでいち早く作業を開始

Zena CSSのエコシステムで公開されている協調的なイノベーションを実現する上で、仮想プラットフォームは極めて重要な役割を果たします。AWS、Cadence、Siemens、Synopsysと協力し、Armの提供するハイブリッド仮想プロトタイピング環境は、ISAパリティでZena CSSをモデル化します。これにより、チームはハードウェアが提供される前に、AIドリブンなワークロードの妥当性を検証し、インフォテインメント・インタラクションのシミュレーションを行い、システムの動作を洗練化できます。これによって、エコシステム全体の統合が加速するだけでなく、開発者はソフトウェアファーストの開発モデルを採用できるため、物理シリコンが提供されていない場合でも、すべてのコンポーネントについて本番対応、セキュリティ、高性能が初日から保証されます。上記で説明したユースケースは、Zena CSSの仮想プラットフォームの潜在的な実証事例として検証されており、エコシステムのテクノロジーを開発ライフサイクルの早期段階で統合・評価できることが明確に示されています。

ArmおよびArmエコシステムと協力し、未来を構築

本稿で共有された裏付けとユースケースは、まだ序章に過ぎませんが、Zena CSSを中心に成長中のエコシステムの初期の素晴らしい勢いを物語っています。SDVとAIデファインド・ビークルが進化を続ける中、より多くのパートナーを仲間に迎え入れ、新たな分野を開拓し、自動車業界全体でイノベーションを促進できるよう、私たちはコラボレーションの拡大に取り組んでいます。 OEM、ティア1メーカー、ソフトウェアベンダー、開発者の皆様は、エコシステムの一員となることで、Zena CSSの仮想プラットフォームを検証し、Armエコシステムと協力してソリューションの妥当性を確認することや、全く新しい製品を開発することが可能です。

次世代のAIデファインド・ビークルを、ともに構築しましょう。

Armについて

Armは、業界最高の性能と電力効率に優れたコンピューティング・プラットフォームであり、コネクテッドな世界における人口の100%に貢献する比類のないスケールを備えています。Armは、演算に対する飽くなき需要に応えるため、世界をリードするテクノロジー企業に先進的なソリューションを提供し、各社がAIによるかつてない体験や能力を解き放つことができるよう支援しています。世界最大のコンピューティング・エコシステムと2,200万人のソフトウェア開発者とともに、私たちはArm上で築くAIの未来を形作っていきます。

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