「Arm Zena CSS」の全貌:AIデファインド・ビークル向けの演算プラットフォーム
著:Arm、オートモーティブ事業部門プロダクト&ソリューション担当バイスプレジデント、スラジ・ガジェンドラ(Suraj Gajendra)
標準化された事前統合済みの演算プラットフォームがシリコンの開発を迅速化し、開発コストを短縮、スケーラブルなソフトウェアがAIデファインド・ビークルをサポート
自動車業界全体の傾向として、自動車はよりインテリジェントでコネクテッド、AIデファインドな存在となりつつあります。かつては高級車限定の機能であった、リアルタイム・ドライバー監視、予知保全、アダプティブ車載インフォテイメント(IVI)などは、今やあらゆるグレードの新車で急速にスタンダードになっています。同時に、自動車開発は複雑化の一途をたどっており、納期は厳格化し、安全要件は進化し、スケーラブルな演算への需要は高まっています。
自動車メーカーとシリコンプロバイダーは、モジュール化され、安全性に対応し、ソフトウェアに対応し、高水準のパフォーマンスと電力効率を実現しつつ、自動車プログラム全体で統合リスクを軽減し、開発期間を短縮してくれる演算プラットフォームを必要としています。
現在、ほぼすべての世界のOEMメーカーがArmの基盤技術に依存している中、私たちはオートモーティブ向けArm Compute Subsystems(CSS)、すなわち「Arm Zena CSS」を展開することで、次の時代の自動車であるAIデファインド・ビークル向けの演算プラットフォームを提供する上で絶好のポジションを確立しています。
シリコン開発サイクルを短縮する最新の統合型CSSを発表
私たちの第1世代Zena CSSは、最新の実績あるArmv9 Automotive Enhanced(AE)テクノロジーをベースとした、標準化され、あらかじめ統合・検証された演算プラットフォームです。これは検証済みの低消費電力・高性能IP、専用のセーフティアイランドとランタイム・セキュリティ・エンジン、リファレンスファームウェア、ソフトウェアのサポートを提供し、シリコンの実装に対応した包括的なCSSとなっています。この包括的なソリューションにより、自動車メーカーはコンセプトの立案から生産までのプロセスを通じ、確信に基づいた上でより迅速に行動し、コストとリスクを削減しつつ、より差別化されたインテリジェントな自動車体験を提供できます。
自動車の開発が一般的に3~5年の期間を要するこの業界で、Zena CSSは、ハードウェアとソフトウェア両方の大幅な納期短縮に寄与します。現在の業界がAIデファインド・ビークル(=複数の領域にインテリジェンスが分散し、各種機能とワークロードが無線で継続的に更新され、エッジで実行される)へと向かう中、Zena CSSのもたらす、スケーラブルかつ安全性に対応した演算用の統合型の基盤によって、自動車メーカー各社は流れに乗り遅れることなく、大規模なイノベーションを実現できます。
各サブシステムは、以下のコンポーネントと機能で構成されます。
- 16コアのArm Cortex-A720AE CPUクラスターによる高性能演算
- CMN S3AEにより提供されるCPUコヒーレンシーとチップ間のI/O接続性
- Arm Cortex-R82AEによるリアルタイム処理に対応するセーフティアイランド
- セキュアなOTAアップデートに対応するランタイム・セキュリティ・エンジン
- Arm TrustZoneの実現するシステム全体のセキュリティと信頼の基点
- 検証済みのレジスタ転送レベル(RTL)とリファレンスファームウェア
- Arm AE Mali GPUとMali GPUを搭載した、オプションのグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)とイメージ・シグナル・プロセッサ(ISP)の統合
- 高度なAI対応SoC設計における進化するワークロード要件に対応するため、アクセラレータやパートナー固有のロジックの容易な統合をサポート
こうしたハードウェアとファームウェアのコンポーネントの事前統合を通じ、Zena CSSは、ディスクリートIPの構築時との比較でシリコンの開発サイクルを最大12カ月短縮します。Zena CSSは、IVIから中央演算、レベル2の先進運転者支援システム(ADAS)まで広く対応しており、自動車メーカーは、演算スタックを再発明する必要や、安全認証の取得を一から始める必要なく、複数の車種やパフォーマンス層へと柔軟に導入できます。さらに、広範なArmの演算アーキテクチャにより、自動車エコシステムは、複数のベンダーによる差別化されたZena CSSベースのSoCを対象とし、ファームウェア、ミドルウェア、OS、さらにはアプリケーションを含む、自社ソフトウェアの多くの要素を移植・再利用できます。
自動車プログラム全体のコストと複雑性を軽減
Zena CSSは、事前および長期間にわたって、エンジニアリング部門全体の負担の軽減に寄与できます。これは、納期が厳しく、機能セットが継続的に拡大する自動車業界にとって特に重要な要素です。Zena CSSは以下のメリットを実現することで、開発プロセスのコストと複雑性を軽減します。
- 従来型のIPベースの設計と比較して、必要なシリコンのエンジニアリング工数を最大20%削減することで、チームはAIデファインド・ビークルのワークロードに特化した差別化機能に専念できます。
- ソフトウェアの標準化を通じ、プラットフォーム間の移植作業を最大30%削減することで、ソフトウェアの開発期間とコストを削減できます。
これにより、車載プラットフォームの開発コスト全体が削減されると同時に、一貫したArmアーキテクチャにより、モノリシックとチップレットベースの両方のシリコン設計でADAS、中央演算、IVIのユースケースに広く対応できます。
業界からの信頼に基づき、機能安全を念頭に構築
すでに自動車市場で展開されている、Armの最新のAEテクノロジーの組み込みのセキュリティ/安全性機能に加えて、Zena CSSは、セーフティアイランドやランタイム・セキュリティ・エンジンなど、安全性とセキュリティの専用ハードウェアをシステムに統合しています。こうした安全性に対応し、事前検証済みのハードウェア・コンポーネントによって、Zena CSSの主要な演算コアクラスターとのコネクティビティが設計されており、セキュアブート、障害検知・管理のサポートなどの機能を提供しつつ、コストの削減と認証取得期間の短縮に寄与しています。
Cortex-R82AE搭載の専用のセーフティアイランドの統合を通じ、Zena CSSは、ADASやドメイン・コントローラなど、セーフティクリティカルな主要ユースケースにデプロイできます。このほか、ソフトウェアエコシステムは、実績のあるセキュアな基盤上でイノベーションと差別化を自由に行いつつ、ソフトウェアの再利用と移植がサポートされることで、より迅速なデプロイが可能です。
Arm上で構築された仮想プラットフォームを通じ、より早期に開発し、より迅速に提供
昨年のIP特化型の仮想プラットフォームに続き、Cadence、Siemens、SynopsysなどのArmパートナー各社は、Zena CSSをサポートする新たなCSSレベルの仮想プラットフォームを発表しています。セーフティクリティカルな領域を中心に、仮想プラットフォームは、よりスムーズな統合と市場投入期間の短縮に向けた道筋であることが実証されています。これにより、エンジニアリングチームは、シリコンの入手を大幅に先行する形でハードウェア/ソフトウェアの共同設計と検証を開始し、開発期間を最大2年短縮できます。AIデファインド・ビークルの場合、開発者は仮想プラットフォームを使用することで、現実的なシミュレーションでAIワークロードとエッジ推論の動作を検証できます。
RTLエミュレーションと仮想プラットフォームを組み合わせることで、自動車メーカーはシリコンの入手を大幅に先行する形でZena CSS演算アーキテクチャを通じて信頼を確立でき、リスクとコストの軽減に役立てることが可能です。一方、クラウドからエッジまでのArmv9アーキテクチャのISAパリティは、自動車へのデプロイ前にクラウド上でのシームレスなソフトウェアテストをサポートすることで、シリコン/ソフトウェア・ソリューションの開発・検証期間を短縮できます。
標準規格に準拠し、完全に統合されたファームウェアとSOAFEEブループリント
Zena CSSは、モダンで将来的な車載アプリケーション向けのオープンでスケーラブルなソフトウェア開発に対応できるよう設計されています。私たちは、安全性やセキュリティなどの各要素が事前に検証され、完全に統合された状態で、Zena CSSのリファレンスファームウェアをエコシステム全体で公開しています。
Zena CSSは、SOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)と緊密に連携しており、SOAFEEコミュニティはCSSに対応し、CSS向けに構築されたブループリントを開発しています。具体的には、自動運転機能を加速させるAutowareのOpen AD Kitブループリント、ミックスト・クリティカルな安全要件向けのデンソーの最新版ブループリント、デジタルコックピットとIVIソリューションの開発・デプロイ用のパナソニック オートモーティブシステムズのブループリントなどが、実環境の自動車シナリオ向けに設計されています。
Armの認証/コンプライアンス・プログラムである「Arm SystemReady」と、自動車OEMのソフトウェアの決定で真の柔軟性をもたらす、その他の業界標準APIに基づき、SOAFEEブループリントは、Zena CSS上でシームレスに動作します。事実、2025年末には、Arm SystemReadyの新たな車載用拡張機能がエコシステムに完全提供される予定であり、これによって車載アプリケーション向けのOSとソフトウェア・スタックは、異なるハードウェア上でシームレスに動作できます。
Zena CSS上で標準規格に準拠したファームウェアとソフトウェアを提供することで、Armはフルスタック・ソリューションを提供しており、これにより、ソフトウェアエコシステムは自動車市場全体で差別化されたアプリケーションを構築・開発できます。この結果、ソフトウェアの再利用と移植も可能となっており、複数のプラットフォームを対象に、アプリケーションと各種機能をより迅速にデプロイできます。このようなZena CSS向けに事前構築されたエコシステムでは、SOAFEEは重要な役割を果たしており、私たちはあらゆる自動車パートナーの労力とリスクを軽減しています。
未来のAIデファインド・ビークル向けに設計
AIデファインド・ビークルへの移行はすでに進行中です。リアルタイムのセンサー・フュージョンからキャビン内の自然言語処理まで、今やAIは、モダンな自動車のあらゆる領域で中核的な機能となっています。しかし、こうしたインテリジェントな機能が進化する中、ヘテロジニアスな演算要件、エッジでのリアルタイム推論、AIとソフトウェア主導の継続的かつ大規模な更新など、一連の新たな課題が提示されています。
自動車はもはやハードウェアだけで決まるものではなく、時間をかけて学習・適応・改善可能なインテリジェント・システムによって形成されます。Zena CSSはこうした変革のために構築されており、スケーラブルなパフォーマンス、商業的差別化、合理化された統合、ソフトウェアの移植を実現することで、AIデファインド・ビークルの時代に対応します。Zena CSSは、パートナー、仮想プラットフォーム、オープンスタンダードの充実したエコシステムに支えられており、よりスマートな自動車へとより迅速に移行し、これを確実かつ大規模に提供するための基盤を実現します。
自動車の未来を決めるのはAIです。そして、自動車の演算プラットフォームは、Arm上で構築されます。
Armについて
Armは、業界最高の性能と電力効率に優れたコンピューティング・プラットフォームであり、コネクテッドな世界における人口の100%に貢献する比類のないスケールを備えています。Armは、演算に対する飽くなき需要に応えるため、世界をリードするテクノロジー企業に先進的なソリューションを提供し、各社がAIによるかつてない体験や能力を解き放つことができるよう支援しています。世界最大のコンピューティング・エコシステムと2,200万人のソフトウェア開発者とともに、私たちはArm上で築くAIの未来を形作っていきます。
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