次世代のソフトウェア定義型自動車におけるチップレットの重要性
チップレットは拡張性、コスト効率、パフォーマンスを強化することで、車載技術にメリットをもたらすモジュール型のシリコン設計アプローチです。
共著:Arm、オートモーティブ事業部門プロダクト&ソリューション担当バイスプレジデント、スラジ・ガジェンドラ(Suraj Gajendra)、imec、オートモーティブ部門バイスプレジデント、Bart Placklé氏
次世代の高度なソフトウェア定義型自動車(SDV)への移行の一環として、自動車業界は現在、重大な変革を迎えています。こうした状況を受け、オンボードの幅広い電子部品は、より少数の高性能演算エレメントに統合されています。しかし、車載技術が急速に進化する中、リソース効率とコスト効果を維持しつつ、求められる演算能力をいかに提供するかという課題はますます大きくなっています。
従来型のモノリシック半導体設計は限界に達しつつあります。自動運転や、没入感あふれるインフォテインメント、強力なコネクティビティに対する需要が高まる中、従来型のチップ・アーキテクチャは限界に近づいています。
幸運なことに、こうした課題にはチップレットという解決策が存在します。自動車業界では、チップレットはすでに主要なテクノロジーとして台頭しており、車載シリコン向けの革新的な新型システム・オン・チップ(SoC)設計を実現しつつ、演算の拡張性と柔軟性を強化しています。
自動車業界でチップレットが重要な理由
チップレット統合のメリットが期待される次世代の車載アーキテクチャを対象に、自動車業界のリーダー各社はすでに積極的な投資を行っています。こうした状況の裏側にある、自動車業界の最近のトレンドと動向を以下に紹介します。
- 集中管理型の演算アーキテクチャ:業界は少数のハイパフォーマンス・コンピューティング・ユニットを用いた集中管理型アーキテクチャへと移行しています。このような演算能力の集中化により、車載アプリケーションでは高度なチップレット・アーキテクチャを採用することが可能です。
- AIの台頭:AI主導の意思決定が自動運転にとって不可欠な要素となりつつある中、チップレットによってOEMはイノベーション・サイクルを分離し、将来的な進化に合わせた自社プラットフォームの適応能力を維持できます。
- パフォーマンス・スケーリング:自動車に搭載される機能の高度化が進む中、演算能力の向上に対する需要が急増しています。システム全体の設計を見直すことなく、用途特化型の処理ユニットの統合を可能にすることで、チップレットはパフォーマンス・スケーリングを促進します。
- 標準化への取り組み:Armのチップレットシステムアーキテクチャ(CSA) や imecの車載チップレット・プログラム(ACP)など、業界全体のイニシアチブにより、チップレットの相互運用性に関する新たなベンチマークが確立されています。インターフェイスの標準化は今後、広範な採用を保証し、統合の複雑性を軽減する上で鍵となります。
これと同時に、モノリシック・チップに依存した従来型システムの場合、演算能力、拡張性、効率性に関して拡大する需要への対応に悪戦苦闘するケースが多く、以下のような重要な課題が発生します。
- システムの複雑化:自動車のソフトウェア主導化が進む中、従来型の半導体アーキテクチャでは、リアルタイムのデータ処理やAIドリブンな意思決定に対するニーズの高まりには対応しきれません。
- 製造のボトルネック:ムーアの法則が減速する中、従来型のSoCを用いたパフォーマンス・スケーリングは、より高コストかつ困難になっています。
- 信頼性の懸念:ミッションクリティカルな車載アプリケーションにおいて、モノリシック設計では故障の隔離と冗長性の実装がますます困難になっています。
新たなシリコン構築方法
基盤となるコンピューティングの柔軟性により、自動車OEMはイノベーションを促進し、技術の発展に応じて進化するカスタマイズされたソリューションを開発できます。2024年3月に発表されたArmのオートモーティブ向けArm Compute Subsystems(CSS)は、演算機能と統合機能を強化することで、チップレットベースの設計をより迅速に構築する手段を提供します。このモジュール型アプローチにより、OEMと半導体メーカーは、車載技術をカスタマイズ・拡張し、地域の特定の要件や進化するグローバル規制に対応できます。
さらに、チップレットは、SoC設計に関する多数の魅力的な可能性をエコシステムに提供します。Armの演算プラットフォームの高い適応能力と拡張性の裏付けとして、同社のAutomotive Enhanced(AE)テクノロジーにより、Armパートナーは複数の再利用可能なコンポーネントをより大規模な車載システムに統合できます。
imecの車載チップレット・プログラム
「チップレットは自動車業界の進化に対する回答であり、革新的なSoCアーキテクチャの創造に必要な柔軟性と拡張性を提供することで、次世代自動車の需要の高まりへの対応を可能にします。」 – imec、オートモーティブ部門バイスプレジデント、Bart Placklé氏
チップレット技術の採用は、自動車の中央コンピューター設計の破壊的な変化を意味します。同時に、チップレットベースのアーキテクチャへの移行を単独で行った場合、自動車OEMにとっては膨大なコストとなる可能性があります。車載エコシステム全体でコラボレーションを促進し、チップレットのメリットを検証するため、imecは2024年末にACPプログラムを発足しました。このイニシアチブは大きな支持を集め、現在ではArm、ASE、BMWグループ、Bosch、Cadence Design Systems、Siemens、SiliconAuto、Synopsys、Tenstorrent、Valeoなど、業界の主要なリーダー企業が参加しています。
半導体ベンダー、電子設計自動化(EDA)企業、ティア1サプライヤーが参加するこのプログラムは、主要な技術課題に取り組みつつ、車載アプリケーションにおけるチップレットの実用的なユースケースを検証しています。この進展は業界内のパラダイムシフトも意味しており、調査や検証といった基礎研究フェーズから、自動車メーカーがチップレットベースの設計の実用化に着手する実装フェーズへと移行しています。
自動車のバリューチェーン全体からリソースと専門知識を集めることで、imecのACPはすでに道を切り開いており、主要な技術課題に取り組みつつ、車載ハイパフォーマンス・コンピューティングの分野に最適なチップレット・アーキテクチャを特定しています。こうした道のりの次の一歩となるのは、ACPによる進歩に基づくチップレットベースのリファレンスデザインの開発です。独バーデン=ヴュルテンベルク州政府とのパートナーシップを通じ、imecは、ハイルブロンのイノベーション・パーク人工知能(IPAI)で先進的チップ設計アクセラレーター(ACDA)の提供を開始しました。この最新のコンピテンス・センターは、最先端のチップレット技術、システム・インテグレーション、パッケージング、AIの機能の開発に重点を置いたもので、基礎研究のリファレンスデザインを構築することで、チップレットへの移行を加速し、リスクを軽減することを目指します。
自動車業界におけるチップレットベース・ソリューションのデプロイの加速で重要な役割を果たすことで、ACDAは今後、チップレット技術のよりスムーズな統合とより迅速な採用を保証しつつ、自動車メーカーのリスクを低減し、市場投入期間を短縮していきます。
imecの「Automotive Chiplet Forum」
Armのグローバル本社(英国ケンブリッジ)で開催された「Automotive Chiplet Forum (ACF)」にて、imecはACPに対する新規メンバーの参加を発表しました。このことは、自動車業界でのACPとチップレット技術の勢いの拡大を浮き彫りにするものです。事実、自動車業界と半導体業界の120人以上が参加した今回のイベントから得られた重要な収穫として、チップレット技術の現在進行中の開発とデプロイを加速させるため、より迅速なアクションが必要であることが確認されました。ACPと並んでUniversal Chiplet Interconnect Express(UCIe)やCSAなどの業界全体の規格は今後、チップレットが自動車業界全体に拡張する上で不可欠な存在となります。これらは今後、Arm CSS for Automotiveのような新たな実現技術の基盤となり、チップレットの開発とデプロイの加速に寄与すると考えられます。
パートナーシップが明日のイノベーションの原動力に
自動車業界は根本的な変革の先頭に立っており、チップレットはこの新時代のビルディングブロックといえます。これにより、自動車の構築、カスタマイズ、強化の方法が再定義され、チップレットの実現する基盤となる柔軟性によって、自動車メーカーは制約のないイノベーションの能力を手に入れられます。
自動車業界でのチップレットの採用に向けたジャーニーは、集団的な取り組みです。ACPなどのプログラムとイニシアチブを通じて、このたび締結されたパートナーシップは、明日のイノベーションの原動力となり、進化を続けるコンシューマー需要に適応可能な、よりスマートかつ安全な自動車の開発を可能にします。
Armについて
Armは、業界最高の性能と電力効率に優れたコンピューティング・プラットフォームであり、コネクテッドな世界における人口の100%に貢献する比類のないスケールを備えています。Armは、演算に対する飽くなき需要に応えるため、世界をリードするテクノロジー企業に先進的なソリューションを提供し、各社がAIによるかつてない体験や能力を解き放つことができるよう支援しています。世界最大のコンピューティング・エコシステムと2,000万人のソフトウェア開発者とともに、私たちはArm上で築くAIの未来を形作っていきます。
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