新しいArm GPUがコンシューマー機器市場にもたらすゲームとAIのイノベーション

June 06, 2024

 

著:Anand PatelArmクライアント事業部門 GPU製品管理担当シニアディレクター

※本資料は、英Armが英国時間2024年5月29日に公開したブログ記事の抄訳です。

Arm GPUは、最新スマートフォンの没入型ゲーム、エッジでのAI活用など、デジタル生活のあらゆる面に不可欠です。業界をリードするArmエコシステムのおかげで、パートナー各社は現在までに100億個以上のGPUを出荷しました。GPUはスマートフォン、タブレット、スマートTV、セットトップボックス、スマートウォッチ、ウェアラブルXR機器など幅広いコンシューマー機器に搭載されています。

昨年の今頃、Armは第5世代のGPUアーキテクチャと新しいGPU製品群を発表しました。これに含まれるArm Immortalis-G720 GPUMediaTekのDimensity 9300システムオンチップ(SoC)プラットフォームに採用され、大手スマートフォンメーカーのvivoとOPPOの上位機種に搭載されました。

今年Armは、第5世代のGPUアーキテクチャを使用した第2世代のGPU製品群を発表し、Arm Compute Subsystems (CSS) for Clientプラットフォームに組み込みました。これに含まれる新しいArm Immortalis-G925 GPUArm Mali-G725 GPUArm Mali-G625 GPUは、フラグシップスマートフォンから、プレミアムモバイルハンドセット、スマートウォッチ、エントリーレベルのモバイル機器まで多様なコンシューマー機器に対応します。これらのGPU設計には以下2つの明確な目的があります。

  1. モバイルゲームの進化に伴って迫力あるビジュアル体験を提供
  2. 主要アプリケーションでAIベースのエクスペリエンスを高速化

最先端のゲームパフォーマンス

昨年のImmortalis-G720は、ピーク性能(フレーム/秒 [fps])と長時間のプレイを可能にする持続性能において大半のグラフィックスベンチマークで競合製品を上回りました。さらなるパフォーマンスを追求したImmortalis-G925は、Arm史上最高の性能と効率性を実現するGPUです。Armのリファレンスプラットフォームで比較すると、Immortalis-G925はImmortalis-G720のパフォーマンス(fps)を37%向上、また同じゲーム性能を提供する場合、Immortalis-G925はImmortalis-G720の消費電力を30%削減します。

主要グラフィックスベンチマークにおけるImmortalis-G720と他SoCのパフォーマンス比較

主要グラフィックスベンチマークにおけるImmortalis-G720と他SoCのパフォーマンス比較

 

主要モバイルゲームでもImmortalis-G925はImmortalis-G720より平均して46%高いパフォーマンスを発揮します。ゲーム個別で見るとGenshin Impactではパフォーマンスが49%、Robloxでは速度が46%上がりました。Call of Duty Mobile、Diablo Immortal、the Day After Tomorrow、Fortnite、PUBG Mobileなど、他のモバイルゲームでもパフォーマンスが平均して29~72%向上します。

これは驚異的な向上であり、開発者、最終的にはゲーマーに大きなメリットをもたらします。

Immortalis-G925の全体的なパフォーマンス向上

Immortalis-G925の全体的なパフォーマンス向上

 

ゲームにおけるリアル感の追求

Armでは、開発者やエコシステムパートナーのニーズに応えるGPUを目指し、モバイルゲームのコンテンツのトレンドを注意深く見守っています。Immortalis-G925も最新のゲームのテクニック、機能、トレンドに合わせて設計されました。エコシステム全体に共通するのはゲームにおけるリアル感の追求です。

シーンジオメトリとは、ゲーム内の物体の精細度を上げ、風景やキャラクターをより実物に近づけることを意味し、近年のモバイルゲームで著しく進歩しています。人気ゲームのFortniteとGenshin Impactでは、開発者がシーンの詳細とリアルさに力を注ぎ、ジオメトリの複雑性が前年比で9~11%増加しています。

複合フラグメントシェーディングとは、物体やキャラクターのテクスチャーを通じてゲームのリアル感を高めるテクニックです。ブルーム、ブラー、物理ベースシェーディングなどゲームでの高度な効果を実現します。FortniteとGenshin ImpactではGPUがフラグメントシェーダーに費やす時間が前年比27~43%も増加しています。

複雑なジオメトリに対するニーズに応えるため、Immortalis-G925はフラグメントプレパスと呼ばれる新しいメカニズムを導入しました。これによりアプリケーションがオブジェクトやプリミティブのソーティングを実行する必要がなくなり、ジオメトリのワークロードを処理する際のオーバードローが減って効率が上がります。フラグメントプレパスでオブジェクトのソーティングがなくなったため、Armではレンダースレッドサイクルの最大43%削減を確認しました。これによりパフォーマンスと電力効率が改善され、CPU負荷も削減されます。

Arm Immortalis-G715 GPUに導入されて以来、リアルな影、反射、高度な照明効果を加えるレイトレーシングの普及が進んでいます。Immortalis-G925は複雑な物体でのレイトレーシング性能を最大52%高め、レイトレーシングによるコンテンツ向上を促進します。Armはレイトレーシングコンテンツの社内テストでレイトレーシング性能をさらに改善しました。たとえば、ゲームシーンの透明性のレベルを維持しつつパフォーマンスを27%向上させます。開発者は逆にゲームシーンの透明性の精度をやや落とし、代わりに最大52%という大幅なパフォーマンス向上と57%のメモリトラフィック削減を選択することも可能です。

Immortalis-G925レイトレーシングの改良

Immortalis-G925レイトレーシングの改良

 

シェーダーコアの増加でより広範なコンシューマー市場に対応

Armは、ノートPC、Chromebook、ゲーミングスマホなどさまざまなコンシューマー機器市場における高性能への需要に注目しました。Immortalis-G925ではサポートするシェーダーコアが50%増え、先行世代の最大16コアから24コアの構成にまで対応します。

この性能レベルに拡張するため、タイラーとコマンドストリームフロントエンド(CSF)に変更と最適化を加えました。Armは、タイラースループットを2倍に高めるとともに、主要コマンドのハードウェアサポート、ハードウェアインタフェース数の増加など、CSFに複数の改良を加えることでシェーダーコアへのジョブディスパッチを高速化しました。

シェーダーコア数の拡張はGPUによって異なります。Immortalis-G925は10コア以上の構成でフラグシップスマートフォンなどの高性能コンシューマー機器に対応します。Mali-G725は6~9コアに拡張可能で、モバイルハンドセットの上位機種を対象とします。ただしImmortalis-G925と同じAPIサポートを持つため、Immortalis-G925の対象とはならないレベルのデバイスでも高度なゲームをプレイできます。Mali-G625は1~5コアに拡張し、スマートウォッチやエントリーレベルのモバイル機器に対応します。

Immortalis-G925、Mali-G725、Mali-G625のコア数

Immortalis-G925、Mali-G725、Mali-G625のコア数

 

AIのパフォーマンス向上

先行世代に続き、ArmはGPUでのAIワークロードの性能と効率を改善しています。CSS for Clientの主要コンポーネントであるImmortalis-G925は、TSC23のImmortalis-G720に比べ、AI/MLネットワークで推論速度を34%高めます。AI処理の大半はCPUで実行されますが、GPUは、画像分類、画像の領域分割、物体検出、自然言語処理、文字起こしなど、さまざまなAIユースケースに対応する高速化を実現します。

CSS for ClientのImmortalis-G925は、TCS23のImmortalis-G720に比べ、AIのパフォーマンスに多くの改善を加えました。画像の分類や領域分割を含む画像処理では、Immortalis-G925が41%という驚異的な性能向上を可能にします。また、開発者がニューラルネットワークを使用して画像をグレードアップするスーパーサンプリングタスクでは30%近く、自然言語処理と文字起こしでも50%性能が向上します。

Immoratlis-G925におけるAIのパフォーマンス向上

Immoratlis-G925におけるAIのパフォーマンス向上

 

ArmはAIのパフォーマンス向上に向けて主要なエコシステムパートナーとも協力しています。Unityとの協力でArmはSentisにint8のサポートを導入しました。SentisとはUnityベースのアプリケーションに対応する機械学習(ML)フレームワークです。int8への移行でパフォーマンスが44%向上するとともに、メモリフットプリントが小さくなり、MLベースのモバイルゲームが快適になります。

最後に、CSS for Clientの一環として、ArmはGPUの物理実装を共同で設計および提供しています。主要ファウンドリーパートナーとの協力により、3nmですぐにテープアウト可能なImmortalis-G925物理実装を実現しました。これによりパートナー各社は3nmプロセスでPPA(消費電力、性能、面積)のメリットを最大限に活用するとともに、量産対応のシリコンソリューションによりシリコン開発と導入にかかる時間を短縮できます。 

エコシステムとのコラボレーションによるグラフィックスの進化

最新のGPUと併せ、Armはゲーミングエコシステムと協力して高度なグラフィック機能の開発に努めています。

Epic Gamesとは、AndroidへのUnreal Engine 5デスクトップレンダラーの導入で協力しています。これによりモバイル機器のImmortalis GPUとMali GPUが、デスクトップクオリティのレンダリングとグラフィックスを実現します。Unreal Engine 5デスクトップレンダラーにおける協力の一環として、レイトレーシングに対応するLumenのソリューションもArm GPU(特にハードウェアベースのレイトレーシングに対応するもの)に最適化されました。Lumenを使用する開発者は、Armのベストプラクティスに従ってシーンの複雑化を抑え、光の表現においてコンソールクオリティに匹敵する速度とプローブ設定を利用できます。

Armは、Googleの強力なAPIであるAndroid Dynamic Performance Framework(ADPF)においてGoogleおよびMediaTekと協力しています。ADPFは、モバイル機器のリアルタイムの熱情報に基づき、開発者によるユーザーエクスペリエンスやアプリケーション性能の最適化を助けます。これはモバイルゲームなどの過酷なアプリケーションの消費電力を抑え、過熱を防止し、プレイ可能な時間を延長します。Armを搭載したGoogle Pixel 8スマートフォンでADPFを有効化することにより、Mobile World Congress(MWC)2024で披露されたSteel Armsモバイルゲームデモでは、フレームあたりの消費電力が25%削減され、フレームレートが35%上がりました。

最後に、ArmはさまざまなGPUツールやリソースを通じ、常にエコシステムとしてゲーム開発者をサポートしています。Arm Performance Studioは、Arm Mobile Studioの成功を受け、新しいワークロード、モバイル以外のプラットフォームやデバイス、そしてGPU(サーバー市場やArm Linuxプラットフォーム向けのCPUを含む)に対応する分析ツールを追加したものです。ArmはArm Performance StudioにArm Frame Advisorを追加しました。これにより開発者はグラフィックスのプロファイリングと最適化を簡単に利用し、最適化の精度を上げるとともに、ソフトウェアの市場投入を早めることができます。

次世代AIとゲームを重視した設計

モバイルゲームとAIワークロードの進化に伴い、最新世代のArm GPUは卓越した性能と効率性で優れたユーザーエクスペリエンスを提供します。これは主流のコンシューマー機器に数多く搭載されてきたこれまでのArm GPUに続くもので、高いピーク性能とゲームの持続性能を発揮します。

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Armは、さらに高度なモバイルゲームとAI機能に対する消費者とパートナー各社の要望を踏まえ、Immortalis-G925、Mali-G725、Mali-G625によりエントリーレベルからハイエンドまで幅広いコンシューマー機器に対応します。新しいArmのGPUはこの需要に応え、史上最高のゲームとAIのパフォーマンスを提供します。これは、Armベースのデバイスを扱う世界に何百万人もの開発者と何十億人ものユーザーに、より高速、リアルで、インテリジェントなビジュアル体験をもたらします。

Armについて

Armのテクノロジーは、未来のコンピューティングを築く存在です。そのエネルギー効率に優れたプロセッサ設計とソフトウェアプラットフォームは、2,800億個以上のチップを通じて高度なコンピューティングを実現し、センサーからスマートフォン、スーパーコンピュータまで、あらゆる製品をセキュアにサポートしています。1,000社以上のパートナーとともに、チップからクラウドまで、あらゆる場所でAIを活用できるようにし、またサイバーセキュリティの分野では、デジタル世界における信頼の基盤を提供しています。Armは、これからの未来を築く根幹を支えていきます。

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